酸素発生型光合成生物の光合成電子伝達系においては,水から奪われた電子は最終的にNADP+を還元する. NADP+だけでなく適当な酸化剤も,光照射により電子伝達系から電子を受け取り還元される.このように,チラコイド膜から電子を受け取れる物質を人工的電子受容体という.人工的電子受容体は電子伝達系のいくつかの部位から電子を受け取ることができる.すなわち, (1)光化学系Ⅱ反応中心の還元側のQAキノン電子受容体(QA)およびQBキノン電子受容体部位(QB), (2)プラストキノンプール, (3)光化学系Ⅰ反応中心の還元側である.
部位(1)に関しては,パラベンゾキノンとその誘導体やインドフェノール類のDCIPがよく用いられる.キノン類はチラコイド膜や,穏やかに調製された光化学系Ⅱ粒子では主にQB部位から電子を受け取る.QA部位から電子を受け取る物質としては,フェリシアン化カリウムやシリコモリブデン酸もしくはシリコタングステン酸が一般的である.ただし,QA部位からの電子伝達を測定する際にはDCMUなどを加えて,QBへの電子伝達を阻害して測定する必要がある.なお,水溶性の高い電子受容体は,チラコイド膜では光化学系Ⅰ(部位(3))からも電子を受け取るので注意が必要である.
部位(2),すなわちプラストキノンプールにおける電子受容体としてもキノン類がよく用いられるが,ここからだけ電子を受け取るのは,現在のところデュロキノンのみである.他のキノン類はQB部位とプラストキノン部位の両方から電子を受け取るので解析には注意が必要である.光化学系Ⅰ(部位(3))からの電子受容体としてはメチルビオローゲンやベンジルビオローゲンのように,水溶性が高く,酸化還元電位の低いものが通常使われるが,ナフトキノンのように酸化還元電位の低いキノン類もこの部位から電子を受け取る.チラコイド膜では比較的高い酸化還元電位をもつフェリシアン化カリウムやDCIPも,光化学系Ⅰの電子受容体として働く.多くの場合,光化学系Ⅱの電子受容体は光化学系Ⅱ型反応中心をもつ光合成細菌で,光化学系Ⅰの電子受容体は光化学系Ⅰ型反応中心をもつ光合成細菌でも人工的電子受容体として機能する.