光合成細菌である紅色細菌,繊維状非酸素発生型光合成細菌(緑色糸状性細菌),緑色硫黄細菌,ヘリオバクテリア,クロラシドバクテリウム,ジェマティモナスの光合成電子伝達系は,1種類の反応中心しかもたない,水の酸化能すなわち酸素発生能をもたないなどの点で,真核光合成生物の葉緑体やシアノバクテリアの酸素発生型光合成の電子伝達系(ゼットスキームモデル)とは大きく異なる.紅色細菌では光化学系Ⅱ型類似(水の酸化能を欠く)の反応中心から,光エネルギーにより放出された電子がユビキノン,シトクロムbc1複合体,c型シトクロムあるいはHiPIPを経て反応中心へ戻る循環的電子伝達系が主に機能してATP生産に寄与しているが, NADH生成などで系から電子が抜けていくため有機酸や硫黄化合物から電子を供給する系も働いている.また,多くの紅色細菌は呼吸機能ももつが,その電子伝達系はユビキノン,シトクロムbc1複合体など光合成の電子伝達系と多くの成分を共有していることが知られている.繊維状非酸素発生型光合成細菌は紅色細菌と同様に光化学系Ⅱ型類似の反応中心をもつが,シトクロムbc1複合体の存在は確認されておらず,反応中心への電子供与体とされている銅タンパク質(オーラシアニン)への電子伝達経路や呼吸の電子伝達系についても明らかではない.2014年に初めて報告されたジェマティモナスの光合成電子伝達経路もまだ研究されていない.緑色硫黄細菌,ヘリオバクテリア,クロラシドバクテリアは光化学系Ⅰ型反応中心をもち,それぞれ硫黄化合物や有機物からの電子が反応中心を経てNADなどの還元を行うとされている.加えて,シトクロムbc1複合体あるいはこれに相当する複合体を経由する循環的電子伝達系の存在も考えられている.これらのバクテリアでも反応中心からキノンヘの電子伝達経路など,電子伝達系の詳細についてまだ不明な点が多い.