蒸散で植物体内の水が大気へと移動する経路には,気孔を通るものと,地上部の表皮を覆うクチクラを通るものの2つがある.後者の経路からの水の移動をクチクラ蒸散と呼ぶ.クチクラは,クチンの重合体とワックスを主成分としており,クチクラ層(cuticular layer),クチクラ質層(cuticle proper),クチクラ外ワックス層(epicuticular wax)の3つの層からなる.クチクラ層やクチクラ質層の主要な骨格成分となるクチンの重合体には,構造的に微小な隙間があり,ここを通って水や脂質などの物質が移動すると考えられている.また,他の仮説として、孔辺細胞の表面側の細胞壁にはクチクラが薄い部分がある.葉柄から吸わせた重金属や蛍光色素がこの部分に大量に沈着するので,この部分がクチクラ蒸散の部位として重要であるという説も提唱されている (気孔周辺蒸散,peristomatal transpiration).
クチクラ蒸散の起こりやすさは,クチクラコンダクタンスによって評価される.クチクラコンダクタンスは,クチクラの厚さだけでなく,クチンよりも疎水性が高いワックスの量や組成も重要であることが示唆されている.