バクテリオクロロフィルの生合成

酸素非活性型光合成を行う光合成細菌がもつバクテリオクロロフィルの生合成は,クロロフィルの生合成同様にグルタミン酸からプロトポルフィリンIXまではヘムの合成系と共有している。また,プロトポルフィリンIXからジビニルプロトクロロフィリド aまでは,クロロフィル aの合成系と大部分は共通点している(図参照).バクテリオクロロフィルは構造によって大きく2つに分けられる。バクテリオクロロフィル abgはポルフィリン骨格からB環とD環の二重結合が還元されたバクテリオクロリン構造をもち、バクテリオクロロフィル cdeはクロロフィル a同様にD環だけが還元されたクロリン構造をもつ。光合成細菌の反応中心複合体での電子供与体は前者のバクテリオクロリン構造をもつ色素が用いられ,特にバクテリオクロロフィル aはほとんどの光合成細菌がもつことから,まずはこの色素についての生合成を説明する.なお慣用的にバクテリオクロロフィルの合成に関与する酵素遺伝子名にはbchおよびbciが付けられている(タンパク質はそれぞれBchおよびBciとなる).
 バクテリオクロロフィル aの合成系はヘムとの最終共通前駆体であるプロトポルフィリンIXにマグネシウムが挿入することで,ヘム合成系と分岐する.マグネシウムの挿入はBchI,BchDおよびBchHの3つのサブユニットから成るマグネシウムキラターゼ(①)によって触媒され,Mg-プロトポルフィリンIXが生成される.この反応には約16分子のATPを必要とする.次にMg-プロトポルフィリンIXのC13位のプロピオン酸が,メチル基転移酵素BchM(②)の反応によってメチル化し,Mg-プロトポルフィリンIXモノメチルエステルが合成される.このBchMの反応は,前段階で働くBchHにMg-プロトポルフィリンIXが結合した状態で促進することから,BchMとBchHは相互作用していると考えられる.その後Mg-プロトポルフィリンIXモノメチルエステルは,酸化的シクラーゼ(③)によって第5番目の環であるE環が形成され,ジビニルプロトクロロフィリド aが生じる.この反応の触媒には,酸素を基質として好気的に反応を進行させるAcsFと,水を基質として嫌気で反応活性を示すBchEと2つの異なる酵素が存在する.その次には,ジビニルプロトクロロフィリド aのD環を還元する光独立型プロトクロロフィリドレダクーゼ(DPOR,④)が働き,ジビニルクロロフィリド aが生成される.この酵素はニトロゲナーゼ様サブユニットタンパク質であるBchL,BchBおよびBchNによって構成される.酸素発生型光合成生物には,DPORとは異なる構造をもち,反応に光を必要とする光依存型プロトクロロフィリドレダクーゼも存在するが,現在のところ光合成細菌にはDPORのみが見出されている.その後ジビニルクロロフィリド aは,ジビニル(プロト)クロロフィリド還元酵素(DVR,⑤)が反応し,クロロフィリド aが合成される.このDVRには,NADPHを電子の供給源として反応するBciAと,フェレドキシンを電子源とするBciBの2つの異なる酵素が存在する。さらには,その次反応を行うクロロフィリド a酸化還元酵素(a-COR,⑥)にもDVR活性があることが確認されている.このDVRと前段階のDPORの反応は,先にDVRがジビルニプロトクロロフィリド aと反応して3-ビニルプロトクロロフィリド aを生成し,次いでDPORによってクロロフィリド aが合成される経路も存在する.その次には,クロロフィリド aのB環のC7=C8の二重結合が,a-CORによって還元されて,3-ビニルバクテリオクロロフィリド aが合成される。このa-CORは,DPORのBchL,BchNおよびBchBとそれぞれ相同性が高いBchX,BchYおよびBchZの3つのサブユニットから構成される.その後には,水和化酵素であるBchF(⑦)が3-ビニルバクテリオクロロフィリド aのC3位のビニル基を修飾し,3-(1-ヒドロキシエステル)バクテリオクロロフィリド aエピマーが生成される.一方で,このBchFが先にクロロフィリド aと反応し,3-(1-ヒドロキシエステル) クロロフィリド aが合成された後にa-CORが反応して,3-(1-ヒドロキシエステル)バクテリオクロロフィリド aエピマーが生成される経路も存在すると考えられている.続いて3-(1-ヒドロキシエステル)バクテリオクロロフィリド aエピマーは,デヒドロゲナーゼ(BchC)によってC3位が酸化されてバクテリオクロロフィリド aが合成される.その後には,バクテリオクロロフィリド aのC17位のカルボキシル基にバクテリオクロロフィル aシンターゼ(BchG)がゲラニルゲラニル基をエステル結合する.このゲラニルゲラニル基上のC6=C7,C10=C11およびC14=C15の二重結合は,この順番でゲラニルゲラニルレダクターゼ(BchP)によって還元されてフィチル基となり,バクテリオクロロフィル aPが合成される.
 バクテリオクロロフィル aと同じく,バクテリオクロリン構造をもつバクテリオクロロフィル bは一部の紅色細菌が合成し,バクテリオクロロフィル gはヘリオバクテリアがもつ色素である.この2つの色素はC8位にエチリデン基をもつ点で共通し,この側鎖が修飾される経路に入ることでバクテリオクロロフィル a合成系から分岐する.共通中間体であるジビニルクロロフィリド aに,a-CORとは反応性が異なるクロロフィリド a酸化還元酵素(b-COR)(⑪)が働くことで,B環のC7=C8の二重結合が還元され,C8位のビニル基がエチリデン基に修飾されると,バクテリオクロロフィリド gが生じる.このb-CORはa-CORと同様にBchX,BchYおよびBchZサブユニットによって構成されるが,一部のアミノ酸が変化して異なる反応性を示すと考えられる.その後,バクテリオクロロフィリド gにファルネシル基がエステル結合するとバクテリオクロロフィル gFが合成される.一方でバクテリオクロロフィリド gにバクテリオクロロフィル a合成系で使われるBchF,BchC,BchGおよびBchPが働くと,バクテリオクロロフィル bPが生成される.
 一方バクテリオクロロフィル abgとは異なり,クロリン構造をもつバクテリオクロロフィル cは緑色硫黄細菌,繊維状非酸素発生型光合成細菌およびクロラシドバクテリアにアンテナ系の色素として存在し,また,バクテリオクロロフィル deは緑色硫黄細菌のアンテナ色素として機能している.これらの色素は,クロロフィリド aまでの合成系は,バクテリオクロロフィル aと共通しており,その後分岐して生合成される.まずクロロフィリド aのC132位のメトキシカルボニル基が,デメトキシカルボニラーゼBciC(⑫)によって取り除かれ,3-ビニルバクテリオクロロフィリド dが生じる.続いて,メチル基転移酵素であるBchQ(⑬)とBchR(⑭)が働き,それぞれC82位とC121位のメチル化反応を行う.BchQは3-ビニルバクテリオクロロフィリド d のC82位のエチル基をプロピル基,イソブチル基およびネオペンチル基へと変換し,BchRはC121のメチル基をエチル基へと変換する.これらのメチル化反応は最後まで進行する場合あれば,途中で止まることもあり,その結果としてC82位とC121位にメチル化状態が異なる側鎖を持った同族体である3-ビニルバクテリオクロロフィリド dホモログが生成される.次にこれらの色素は,水和化酵素であるBchF(⑦)とBchV(⑮)によって,C31位に水酸基が導入され,バクテリオクロロフィリド dホモログエピマーが生じる.このC31位の水酸基はRSの立体化学が異なるエピマーとなっており,ホモログと合わせてそれらの組成比はアンテナ系の吸収波長に影響する.BchVはBchFのオーソログであるが,BchFよりもC81位がプロピル基やイソブチル基と言ったアルキル鎖の長い色素との反応性が高い.バクテリオクロロフィリド dホモログエピマーのC17位のカルボキシル基にファルネシル基がエステル結合すると,バクテリオクロロフィル dFホモログエピマーが合成される.一方でバクテリオクロロフィリド dホモログエピマーに,C20位メチル基転移酵素BchU(⑯)が反応すると,バクテリオクロロフィリド cホモログエピマーが合成され,それらのC17位にファルネシルが結合すると,バクテリオクロロフィル cFホモログエピマーが生成される.さらには,バクテリオクロロフィリド cホモログエピマーに,C7位ホルミル化酵素BciD(⑰)が反応すると,バクテリオクロロフィリド eホモログエピマーが生じ,それらにファルネシルがエステル化することで,バクテリオクロロフィル eFホモログエピマーが生合成される。

BChls biosynthesis.png

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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:45:36