原形質膜やオルガネラ膜に存在し無機リン酸(Pi)を輸送する輸送体.原形質膜,葉緑体包膜,およびミトコンドリア内膜上には,それぞれ進化的起源の異なるリン酸トランスポーター(PHT1, PHT2,PHT3)が存在する.原形質膜リン酸トランスポーター(PHT1)は,出芽酵母の原形質膜の高親和型H+/Pi共輸送体のオーソログとして同定された.植物においては, PHT1の遺伝子は複数(シロイヌナズナでは少なくとも6コピー以上)存在しており,これらの遺伝子の発現パターンが組織やリン酸の栄養状態により異なることから,これらの遺伝子産物の,リン酸欠乏時や,老化に伴うリン酸の転流の際の機能分担が示唆されている.また,これらの遺伝子のいずれかは,リン酸欠乏時に根において誘導される高親和型のリン酸取り込み活性を担う分子的実体をコードしていると考えられる.なお,これらのPHT1ホモローグは,進化的にはmajor facilitatorsuperfamily (進化的に同一起源ですべての生物に普遍的に存在する,様々なイオンや糖などの輸送を行う12回膜貫通型構造の輸送体ファミリー)に属する.
第2のリン酸トランスポーターであるPHT2は,アカパンカビや出芽酵母の原形質膜Na+/Pi共輸送体のオーソログとして発見された.PHT2は,当初,原形質膜の低親和型のリン酸取り込み活性を担う分子的実体であるとされ, phosphate permease とも呼ばれたが,のちに葉緑体包膜に局在することが証明された. PHT2遺伝子は,シロイヌナズナでは1コピーのみ存在するが,原核生物や動物にもオーソログが存在し,その進化的起源はきわめて古い.なお,葉緑体包膜にはこれとは別に様々な糖リン酸とPiとの交換輸送体が多種類存在する(三炭糖リン酸トランスロケーター,色素体リン酸トランスロケーター).ミトコンドリア内膜には,動植物に共通起源のミトコンドリア型リン酸トランスポーター(PHT3)が存在する.本トランスポーターはH+/Pi共輸送活性をもち,マトリックスと細胞質ゾルの間のPi輸送を行う.