光合成が,地球上の生物によるほとんどすべての物質とエネルギー循環の基礎となっている最も重要な過程であることは, 改めて強調するまでもない. この地球の環境を支える光合成は一方で,物理的, 化学的,生物的諸過程の複合過程であり,その研究は理学,農学,工学など基礎 ・応用両分野に広くまたがっている.この十数年間に, 科学 ・技術,特に生物科学の分野の研究は急速な進展を遂げ, 光合成に関しても,新たな知見,概念,研究手法が多数蓄積されてきた .その結果,その内容は膨大 ・複雑 ・ 多岐, また多分野にわたり,そのため, これらを簡潔にしかも正確に把握することが 困難になりつつあるのが現状であろう.
このよ うな状況にあたり,光合成の専門家だけでなく, 物理学, 化学, 生態学や農 学, 地球科学など多く の分野の研究者や, 学生, 大学院生, さらには, 高等学校,高 等専門学校の先生方の利用に供しうる事典を編纂し,光合成および関連分野の発展に 寄与しようとする機運が高まり, 平成12年の秋に日本光合成研究会の事業のーつとして本事典の刊行が承認された.
実際には,日本光合成研究会から委嘱された6名からなる編集委員と, 22 名の編集協力者の方々のもとで項目集めと分野分けの作業が行われ, 平成13年の秋には約 2,300 項目を決定して200 名近くの方々に執筆をお願いした.幸い短期間にほとんどの原稿が集ま り,編集協力者の方々による査読と10 回近くの編集会議を経て, ここに完成することとなった. 編集委員会としては, 項目を集めて簡単な定義を示した辞典ではなく,内容を詳しく解説したこれまでにない事典が出来上がったと自負して いる.光合成の分野では この種の辞・事典の発行は世界的にも初めてであろう.また, この事典では光合成プロパーの項目にとどまらず, 植物科学の広い分野にわたる項目をとりあげて,研究の最前線で活躍している比較的若い研究者に多く執筆していただいた.本書が光合成関連分野は もとより, 広く植物科学分野の研究 , 技術開発, また 教育のさまざまな場面で利用されることを願ってやまない .なお この分野の研究の発展は速く, すでに現時点で古く なっている事項 ・内容, 重要な項目の欠落, さらには編集者の不注意のための思わぬ誤りなどがあることを恐れている.お気づきの点があれば, ご指摘をいただ、ければ幸いである. 最後になったが,本事典の編纂にお忙し い中を終始ご協力いただいた執筆者 ・編集 協力者, その他多くの方々に心から感謝の意を表する次第である.