導管は、ほとんどの被子植物と一部の裸子植物(グネツム類)とシダ植物(イワヒバ、ハナワラビの仲間)に存在する組織で、根で吸収した水や無機塩の輸送経路として機能する。
導管は、直径が10から500 μm、長さが0.14から1.25 mmの死細胞である導管要素が茎の軸方向に連なってできる構造体を持つ。それぞれの導管要素の両端には穿孔(perforation plate)という、導管直径と同程度の幅の孔が開いていて、軸方向への効率的な輸送を可能にしている。導管要素の細胞壁はリグニンを含んだ二次壁が数 μmの厚さで肥厚している。このため、導管は、導管を流れる水にかかる強い張力に耐えられ、さらに水が導管外部へ漏れることなく長距離にわたって水を輸送できる。成長の初期に作られる一次木部の導管では、二次壁が螺旋状に肥厚するのに対して、二次木部の導管では二次壁が均等に肥厚するため、こうした模様は観察されない。また、導管要素の側面で木部柔組織や導管と隣接している場所では、直径が2から8 μmの壁孔(pit pore)という小さな孔が高い密度で配置されている。壁孔では二次壁の肥厚がなく、壁孔膜(pit membrane)と呼ばれるペクチンに覆われた一次壁が露出している。このため、隣り合った導管と木部柔組織の細胞、導管と導管という横方向の物質の移動が壁孔を通して可能になる。一方で、隣接した導管が気体で満たされた状態(キャビテーション)になったときには、壁孔膜を構成するセルロース微繊維を取り巻くペクチンの隙間にできる空気と水の境界面のメニスカスが、気泡の侵入を防ぐ障壁となる。しかし、壁孔膜の両側での圧力差が大きくなるとこれらの隙間を通って気泡が侵入し、キャビテーションが拡大する。
導管は、周囲にある導管と接したり離れたりを繰り返し、最後には、隣接した導管と接した状態で閉じる。閉じた部分を導管末端(vessel end)と呼ぶ。導管末端から導管末端までの距離を導管長(vessel length)と呼ぶ。植物種間でも、個体のなかでも様々な導管長が観察される。木部に含まれる導管の導管長は、平均値で2 cmから20 cm、最大値で10 cmから数 mのものまでが報告されている。直径の太い導管ほど導管長は長くなる傾向がある。導管末端を持つことから、導管を流れる水は、導管の内腔部分と導管の壁孔部分の両方をかならず通ることになる。複数種で比較した結果から、一定長さの枝に含まれる導管の内腔部分と壁孔部分の流れやすさ(通導度, kg/s(時間当たりの水の流量)・m(枝長)・MPa(圧力))は、ほぼ等しいことが報告されている。
導管のように細い直径の管を水が流れるときには、通導度はハーゲン・ポアズイユの法則に従い、直径の4乗に比例して増加する。したがって、導管の通水能力は、導管の直径に強く依存する。同じ種でみると、枝の先端から基部に向かって、枝木部に含まれている導管の直径は増加する。個体サイズの増加に伴って水の輸送距離は長くなるため、このとき導管の直径が変わらないと仮定すると、輸送距離を考慮した水の流れやすさ(通水コンダクタンス、kg/s(時間当たりの水の流量)・MPa(圧力))は、輸送距離に反比例して減少する。通水コンダクタンスの減少が起きると、個体サイズが大きくなるほど葉からの蒸散速度は低下し、気孔は閉鎖し、光合成速度は低下してしまう。これに対して、個体内の導管直径の増加は、こうした個体サイズに依存した通水コンダクタンスの減少を補償すると考えられている。
木本種では、材における導管の配置から、大きく散孔材、環孔材に分けることができる。散孔材は、生育期間を通して比較的同じ直径の導管が作られる。そして、導管は複数年にわたって水輸送経路として機能する。一方で、環孔材は、生育期間の始めに少数だが大きな直径を持つ導管が作られる。これらは、孔圏導管と呼ばれる。そして、残りの生育期間のほとんどは、細い直径の導管が作られる。孔圏導管は太くて高い通水能力を持つが、通水組織として機能するのは1年だけである。