熱発光[thermoluminescence (TL)]

  前照射した葉緑体,生葉,藻類細胞などを急冷し,暗所で徐々に加熱した際に特定温度で起こる微弱な発光で,遅延蛍光と同様に光化学系Ⅱの光化学反応の部分的逆行に起因する.すなわち,光化学系Ⅱの光化学反応によって反応中心の酸化側,還元側に生成する正孔と電子の対は比較的長寿命なので,急冷によりその大半がトラップされる.これを加熱すると,トラップ状態の正孔・電子対が活性化エネルギーを得て反応中心分子上に逆行して再結合し,その際にある確率で反応中心の励起状態を再生産するので,クロロフィルから蛍光の発光が起こるものと理解されている.
 多くの場合,電子トラップの実体は光化学系Ⅱのキノン電子受容体(QA, QB)であり,正孔トラップの実体は酸素発生系マンガンクラスターの酸化状態(S状態:S2, S3)である(上表参照).発光強度を温度軸に対してプロットした発光強度曲線(グローカーブ)は,前照射条件(温度,閃光回数,電子伝達阻害剤)に応じて大きく変化し,一般的に連続光照射では全発光成分か,2ミクロ秒以下の単発閃光照射では単一の成分からの発光が観察される.熱発光現象自体の発見はArnoldとSherwood (1975)によるが,電子・正孔対の同定やS状態との関連についての研究は1980年代に主に我が国で進められ,閃光照射回数に依存した発光強度の4周期振動現象の解析から,酸素発生反応の塩素イオン依存性や表在性タンパク質の機能に関する豊富な知見を提供して,光合成研究分野における一般的測定法として認められるようになった.また,発光温度がトラップの深さを間接的に反映することを利用して,アミノ酸置換変異体における電子伝達体の微妙な構造的変化を検出する手段としても用いられている.

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関連項目


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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:46:08