X線結晶構造解析[X-ray structural analysis]

 生体高分子の結晶構造解析には,波長が約1ÅのX線が用いられる.結晶の方位を変えながらX線回折パターンを撮像し,各回折斑点の積分強度から散乱振幅を求め,これに位相情報を付け足し,フーリエ変換という数学的手法を用いて,電子密度図を得る.位相情報を得る方法には, (1)分子置換法, (2)重原子同型置換法, (3)多波長異常分散法, (4)直接法,の4種類がある. (1)では,類似のタンパク質の構造モデルから初期位相を求め,実験データをよく説明できるまで構造モデルの修正を行い,位相を正しい値に近づけていく. (2)では,重原子を染み込ませた結晶の回折強度データと無染色の結晶から得たデータとの比較を行い,重原子の結合位置を決めたのち,タンパク質由来の回折波の位相を求める.(3)では,重原子の吸収ピーク波長を含む複数の波長でX線回折データを収集し,1個の結晶から構造解析に必要なすべての情報を得る. (4)は,ウイルスの正20面体構造のように対称性の高いタンパク質複合体の構造解析に用いられる.タンパク質の構造モデルの構築には,電子密度図を見ながら,ポリペプチドの主鎖を置き,アミノ酸の側鎖,基質,無機イオン,水分子,を適宜付け加えていく.3Å台の分解能でアミノ酸残基の側鎖が見え, 2.5Åの分解能でタンパク質に結合している水分子が見えてくる.
 構造解析の分解能は,結晶性の良し悪しにより決まる.結晶化には,バッチ法,蒸気拡散法,透析法がある.市販の結晶化キットを用いると,結晶化条件を短期間に探索できる.また,シンクロトロン放射光施設の建設や低温X線回折測定技術の向上により,微小な結晶を用いたX線回折測定か可能になり, 10 mg程度の少量のタンパク質でも結晶構造解析ができるようになった.最近では,セレノメチオニン(メチオニンの硫黄原子をセレンで置き換えたアミノ酸誘導体)を含むタンパク質を結晶化し,多波長異常分散法を適用して構造を短期間に解くという方法論が確立し,X線結晶構造解析の迅速化が進んだ.
 X線結晶構造解析法は, RubiscoFNR-Fd複合体などの可溶性タンパク質に用いられているほかに,膜タンパク質ではシアノバクテリアの*光合成系Ⅰの構造決定に用いられ, 2.5Å分解能のモデルが構築されている.その結果,12個のサブユニット構造とクロロフィルなど127個の補欠分子の存在様式が明らかにされている.紅色細菌の反応中心では2.3Å,光合成系Ⅱについては3.5Å分解能の構造モデルが構築されており,後者については酸素発生の活性中心であるマンガンクラスターの詳細な構造が解明されつつある.


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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:44:38