ミトコンドリアの呼吸鎖のNADHデヒドロゲナーゼのサブユニットと相同性のあるタンパク質をコードする遺伝子として, 1986年にタバコとゼニゴケの葉緑体ゲノム上で最初に見つかった.陸上植物の葉緑体ではndhA~Kの11種類のndh 遺伝子が存在している.シアノバクテリアにも,ndh 遺伝子が存在しているが,藻類では緑藻類の一部の葉緑体ゲノム上に数種類見つかっているものの,これまで調べられているほとんどの藻類の葉緑体ゲノム上には見つかっていない.葉緑体ゲノム上では,ndhH,ndhA,ndhI,ndhG,ndhE,ndhDがクラスターをなしてndhFが単独で小単一配列領域に,ndhC,ndhK,ndhJのクラスターが大単一配列領域に,ndhBが逆位反復配列領域に存在しており,ndhAと,ndhBにはイントロンが存在する.ndhA~G遺伝子産物は動物ミトコンドリアDNAにコードされているサブユニットND1~4, ND4L, ND5, 6にそれぞれ対応し, ndhH~K遺伝子は動物では核にコードされているサブユニットと相同なタンパク質をコードしている. ndh 遺伝子の機能については遺伝子破壊の実験などから,シアノバクテリアでは光合成の循環的電子伝達と呼吸鎖の電子伝達に働き,無機炭素の取り込みにも関与していることが明らかとなっている.葉緑体においても光合成の循環的電子伝達に働く葉緑体NDH複合体のサブユニットをコードしていることが示されている.また,葉緑体呼吸にも関与していると考えられている.