紅色細菌の反応中心は,機能的には他の光合成生物の反応中心と同様に,バクテリオクロロフィル類とカロテノイド類から成るアンテナ色素系からの励起エネルギーを利用して(または直接光を吸収して)初期電荷分離をひき起こし,ひき続く電子伝達系を駆動させる色素-タンパク質複合体である.反応中心は通常,Lサブユニット(約31 kDa), Mサブユニット(約35 kDa), Hサブユニット(約28 kDa)およびCサブユニット(約45 kDa, 反応中心結合型シトクロム)の4サブユニット(組成比は1:1:1:1)より構成されているが,Cサブユニットを欠く菌種も知られている.光合成生物の反応中心として最初に,また膜タンパク質複合体としても最初のものとして1985年にDeisenhofer,MichelらによるX線結晶構造解析により詳細な構造が決められた.基本構造は光化学系Ⅱ反応中心と相同であることが知られているが(L,Mサブユニットと光化学系Ⅱ反応中心のD1, D2タンパク質がそれぞれ相同),酸素発生系をもたない点は大きな相違点である.
補欠分子族としてバクテリオクロロフィルを4分子,バクテリオフェオフィチン2分子,キノン2分子,非ヘム鉄1原子,カロテノイド1分子を含む.バクテリオクロロフィルのうち2分子はスペシャルペアクロロフィル(P870, P960などと呼ばれる)で,ペリプラズム(細胞周辺腔)側に位置し,これと細胞質側の2つのキノンに挟まれた非ヘム鉄を結ぶ軸を中心として2回対称状に残りのバクテリオクロロフィル2分子(アクセサリークロロフィル,B800,B850などと呼ばれる),バクテリオフェオフィチン2分子およびキノン2分子が配置されている.励起スペシャルペアクロロフィルからの電子はLサブユニットに結合するバクテリオフェオフィチンを経て,Mサブユニットに結合するQAキノン電子受容体へ移動し,最終的にLサブユニットに結合するQBキノン電子受容体を還元する.QAは種によりメナキノンまたはユビキノンであるがQBはユビキノンである.一次電子受容体として働くバクテリオフェオフィチンが存在する側(Lサブユニット側)をAブランチと呼ぶ.カロテノイドは電子伝達をしないMサブユニット側(Bブランチ)のアクセサリークロロフィルを外側から取り巻くように存在し,スペシャルペアに生じた三重項状態をアクセサリークロロフィルを経由して解消していると考えられている.なお,反応中心としてはバクテリオクロロフィルaまたはバクテリオクロロフィルbのほかに,中心金属として亜鉛原子を含む亜鉛-バクテリオクロロフィルaが機能している場合も知られている.反応中心タンパク質の遺伝子はパフ(puf)オペロンとプー(puh)オペロンに存在しており,前者にはL, M, Cサブユニットの遺伝子がこの順に並んで存在し,後者には紅色細菌に独特と考えられるHサブユニットの遺伝子が含まれている.