光化学系ⅡのチロシンD,チロシンZラジカル由来の電子常磁性共鳴(EPR)信号.シグナルⅡのg値は2.0046,線幅はおよそ2 mT. X-band EPR スペクトルではおよそ0.5 mT程度に分離した超微細分離を示す.シグナルⅡのEPR線形はチロシン分子の2個の等価なα-メチルプロトンと1個のβ-メチレンプロトンの超微細相互作用によって説明される.シグナルⅡの生物種によるEPR線形の相違は,多くの場合β-メチレンプロトンのなす二面角の違いに由来している.相対的なラジカル寿命の違いによってシグナルⅡs(slow),シグナルⅡf(fast),シグナルⅡvf (veryfast)の3種に分類される.シグナルⅡsは数時間から数日で減衰する.シグナルⅡfは酸素発生系が不活性な状態でのみ観測され, 400~600ミリ秒で減衰する.シグナルⅡvfは酸素発生活性のあるときのみ観測され,酸素発生系のS状態に依存してサブミリ秒で減衰する.シグナルⅡsはD2タンパク質の161番目(シアノバクテリアなどでは160番目)のチロシン残基(チロシンD)由来,シグナルⅡvf,シグナルⅡfはD1タンパク質の161番目のチロシン残基(チロシンZ)に由来する.シグナルⅡvfの減衰は酸素発生系からチロシンZラジカルへの電子供与に,シグナルⅡfの減衰は光化学系Ⅱの二次電子受容体であるQAキノン受容体との電荷再結合に対応している.シグナルⅡvfの減衰速度はS状態に依存して変化する.チロシンZは反応中心P680への直接の一次電子供与体と考えられている.チロシンDはS2状態,S3状態のマンガンクラスターにより数ミリ秒で酸化される.また,チロシンDラジカルは数時間のオーダーでS0状態のマンガンクラスターをS1へ酸化する.このため暗所では全チロシンDの3/4がシグナルⅡsとして観測される.チロシンDのフェノール環OH基はD2タンパク質のHis189と水素結合していると考えられている.チロシンDラジカルは中性ラジカルである.