Rubisco のキネティクスに基づいた光合成における炭素吸収速度の生化学的数理モデル.Farquharらによって1980年に発表された(1980, Planta 149, pp. 78–90).別名,C2光合成モデル,または共著者の頭文字を取って,FvCB (Farquhar–von Caemmerer–Berry)モデルとも呼ばれる.彼らはC3植物の光合成系内の代謝産物やエネルギーの流れを定量的に記述し,反応速度論に基づいて光合成速度のCO2濃度・光強度・温度依存性を関数化した.このモデルの出現により,光合成速度の環境要因依存性を容易に予測できるようになった.このモデルは現在でもほぼ発表当時のままの形で,様々な分野で利用されている.
彼らのモデルでは,Rubiscoの触媒反応が重要な役割をもち,二酸化炭素固定,光呼吸,チラコイド膜反応の関係をよく記述している.Rubiscoはリブロース1,5-ビスリン酸(RuBP)の二酸化炭素固定反応(カルボキシレーション)とオキシゲネーション反応の両方を競合的に触媒する.このため,酵素当たりの二酸化炭素固定の反応速度は葉緑体内におけるRuBP,CO2,O2の濃度の影響を受ける.光が弱いときなど,還元的ペントースリン酸回路(カルビン回路)を駆動するためのエネルギーが不足している場合,二酸化炭素固定反応はRuBPの再生産速度に律速される.逆に,光強度が高くなり葉緑体内のRuBP濃度が十分高くなれば,二酸化炭素固定反応はCO2濃度の影響を強く受ける.高CO2濃度では,強光下でもRuBPの再生産速度が光合成を律速するようになる. RuBPの再生産速度は光合成電子伝達系や還元的ペントースリン酸回路の諸酵素に律速されていると考えられている.一定の環境条件では,葉の光合成能力は,RuBPの再生産能力とRuBPカルボキシラーゼ活性の2つに依存する.両者の能力は,葉緑体内である程度バランスを保つように調節されていると考えられている.