生体膜におけるエネルギー変換においては,プロトン(H+,水素イオン)の電気化学ポテンシャル(差)(プロトン駆動力(H+駆動力))が中心的位置を占めている(化学浸透説(化学浸透圧説)).プロトンポンプは,狭義にはATPを加水分解して膜内外にプロトン駆動力(H+駆動力)をつくり出すプロトン-ATPaseをいう.生体膜は,プロトンポンプが形成するプロトン駆動力(H+駆動力)を利用してイオンや非電解質など様々な溶質の輸送を行う.プロトン-ATPaseには,細胞膜にありバナジン酸で阻害されるP型(リン酸化中間体を生じる),液胞膜にあり硝酸イオンで阻害されるV型,葉緑体チラコイド膜,ミトコンドリア内膜,光合成細菌クロマトホアや細菌細胞膜にありアジドイオンで阻害されるF型などに分けられる.F型は,通常は逆反応であるATP合成を触媒するので,ATP合成酵素と呼ばれる.広義には,電子伝達によりプロトン駆動力(H+駆動力)を生み出す電子伝達系なども含まれる.