シアノバクテリアや藻類・陸上植物などの酸素発生型光合成生物に普遍的に存在する糖脂質の一つで,ジアシルグリセロールのsn-3位にガラクトースが結合したもの. MGDGの略称で呼ばれることが多い.高等植物のチラコイド膜では全膜脂質の50%程度を占め,植物が占めるバイオマスとしての大きさから,地球上で最も多量に存在する極性脂質であるといわれている. MGDGにさらに1分子のガラクトースが結合したジガラクトシルジアシルグリセロール(DGDG)もチラコイド膜脂質の30%を占める主要膜脂質である. MGDGはシアノバクテリアや高等植物ではチラコイド膜の形成や光合成の機能に重要な役割を担っていると考えられている.実際,シアノバクテリアの光化学系Ⅰ複合体(PSI)の結晶構造解析によって1分子のPSIに1分子のMGDGと3分子のホスファチジルグリセロール(PG)が強く結合していることがわかっている.他方,最近の研究により,後述するエピメラーゼ活性を失ったシアノバクテリアでは,MGDGとDGDGの両方が,前駆体であるモノグルコシルジアシルグリセロールに置き換えられているが,それでも光合成能を保持していることもわかっている。MGDGは光合成生物以外では存在量は低いが,哺乳類の精巣などの器官にも存在する.
MGDGの合成は高等植物ではジアシルグリセロールとUDP-ガラクトースを基質とし葉緑体包膜においてMGDG合成酵素(UDP-ガラクトース:1,2-ジアシルグリセロール3-β-D-ガラクトシルトランスフェラーゼ, EC 2.4.1.46)により合成されることがわかっており,キュウリやシロイヌナズナからMGDG合成酵素の遺伝子が単離されている.シロイヌナズナでは3種のMGDG合成酵素遺伝子atMGD1, atMGD2, atMGD3の存在が知られており,それらの酵素はアミノ酸配列の相同性や機能などから2つのタイプ(タイプA, B)に分類されている.タイプA (atMGD1)は色素体内包膜に局在し,主に光合成組織で緑化の際に葉緑体チラコイド膜の形成に関わっている.実際atMGD1の遺伝子発現が低下した変異体は葉の緑化に損傷をきたすことが知られている.一方,タイプBのMGDG合成酵素(atMGD2, atMGD3)は主に花や根などの非光合成組織で機能しており,非光合成組織での色素体の形成やリン欠乏時のリン脂質の代替としてのDGDGの合成に関与していると考えられている.なおシアノバクテリアでは,MGDGはモノグルコシルジアシルグリセロールからの異性化によって合成されることがわかっており,これにかかわるエピメラーゼ遺伝子mgdEが同定された。これに対し,ほとんどの藻類は植物と同じようにしてMGDGを合成している。シアノバクテリアから葉緑体ができる過程(細胞内共生説参照)で,MGDG合成系が切り替わった理由はまだ明らかではない。