植物や菌類,動物など真核生物に普遍的に存在し,ATPの加水分解と共役して水素イオン(H+)を膜輸送するプロトンポンプ.液胞,リソソーム,ゴルジ体やエンドソームといった細胞内酸性オルガネラのほか,哺乳動物や昆虫の特殊な細胞やある種の細菌の細胞膜にも分布する.H+の一次能動輸送で形成された酸性環境は好酸性酵素の活性化に加えて,膜(例,液胞膜)を介した電気化学ポテンシャル差を形成して多くの二次輸送を可能にする.
液胞型プロトンATPaseの基質Mg-ATPに対するKm値は0.1~0.2mMで,H+/ATP共役比はパッチクランプ法により1.8~3.3と報告されている.Cl-はATP加水分解とH+輸送活性を促進する.阻害剤として,バフィロマイシンA1,コンカナマイシンA,硝酸イオンなどが知られている.酵素は10数個のサブユニットから成る複合タンパク質で,高次構造はATP合成酵素と似ている.ATP加水分解の触媒部位をもつ表在性領域のV1 (A3B3),H+輸送を行うチャネル構造をもつ膜貫通領域のV0(ac6),V1とV0を結ぶ領域(C, E, F, G, Hおよびd)などで構成される.真核生物では,V0を形成するサブユニットにアイソフォームが存在するのが一般的で,細胞内の局在部位で酵素のサブユニットアイソフォーム組成が異なる.同様の理由でV0にeサブユニットが加わる場合もある.