生態系や地球をめぐる炭素の動き.緑色植物の光合成による二酸化炭素(CO2)から有機物への炭素同化が生態系における炭素循環の開始点になる.陸上では,光合成産物の植物体内での分配,独立栄養的呼吸による消費,枯死による土壌への移動,微生物による分解を経て大気へと戻るのが炭素循環の概要である.海洋では,植物プランクトンに代表される生物過程に加えて,大気CO2の溶解などの物理化学過程や海流による輸送過程が重要な役割を果たす.グローバルにみると,海洋と陸上の植物は,1年間に合わせて約150Pg(P=ペタ=1015)もの大気CO2を光合成で固定しており,ほぼ等量を呼吸によって放出している.つまり,光合成と呼吸は地球の炭素循環において重要なフローを担っている.より長い地質学的時間スケールでは,巨大な炭素プールをもつ岩石の風化や火山からの放出などの無機的過程の重要性が増す.しかし,現在の大気組成(酸素・CO2濃度)が形成される過程で,光合成は決定的に重要な役割を果たしたと考えられる.炭素は有機物に必ず含まれる生物の主要構成元素であるため,炭素循環を考えることは様々な生態系機能や生物地球化学的過程を統合的に考えることを意味する.また,大気中の炭素を含む気体(CO2,メタン)は重要な温室効果ガスであるため,地球の気候形成や将来の地球温暖化を考える場合,炭素循環は必須課題となっている.現在では,化石燃料消費や森林破壊などの人間活動によって大量の炭素が大気中に放出され,地球の炭素循環が大きく撹乱されている.それは地球温暖化という環境問題をひき起こし,植物の光合成に施肥効果をもたらすことで生態系の炭素循環にも影響を与えているため,炭素循環の解明は世界的に急務となっている.たとえば渦相関法による炭素収支の測定や,そのデータに基づく炭素循環モデルの開発研究が盛んに行われている.