光合成による酸素発生の起源は,およそ25億年前(この年代には諸説があるが,すくなくとも20億年よりも前と考えられる)の太古の地球に出現したシアノバクテリアが,水を電子源として利用する酸素発生型光合成を始めたことによる.酸素発生型光合成による酸素放出は,地球を酸化的大気環境に変え, エネルギー効率の高い酸素呼吸を利用する多様な生物の進化の引き金となった.また,オゾン層を形成して有害な紫外光を除去し,生命の陸上進出を促した.酸素発生型光合成の成立過程には不明な点が多いが,光化学系の類似性から,幾つかの仮説が考えられる.まず, 非酸素発生型光合成を営む光合成細菌由来の,2つの異なる型の反応中心(I型およびⅡ型)から光化学系Ⅰおよび光化学系Ⅱが進化し,それらが直列に連結されることにより,水を酸化する強い酸化力とCO2固定に必要な還元力を同時に得ることが可能となった.その際,光合成細菌の持つ光合成色素であるバクテリオクロロフィルaは,より励起エネルギーおよび酸化還元電位の高いクロロフィルaに置き換えられた.さらに,光化学系Ⅱの進化過程において,タンパク質環境の改変により,クロロフィル二量体P680の酸化還元電位が上昇し,水の酸化を可能にする駆動力が与えられた.そして,水分解の触媒部位であるマンガンクラスターが,光化学系Ⅱのルーメン側に構築された.現存する酸素発生型光合成生物では,シアノバクテリアから高等植物まで,マンガンクラスターの構造や反応機構は基本的に同一であり,太古の地球におけるマンガンクラスターの生成過程についてはほとんどわかっていない.