P680 光化学系Ⅱの一次電子供与体クロロフィルaの名称.光化学系Ⅱタンパク質複合体中のマンガンクラスターにおける水分解反応を可能にするため,約1.1 Vというきわめて高い酸化還元電位をもち,これが他の型の光化学反応中心の一次電子供与体とは著しく異なった特徴をなしている. P680が光化学系Ⅱタンパク質中のどのクロロフィルに対応するかについては様々な議論がある.紅色細菌のP870に対応する,D1タンパク質のHis198とD2タンパク質のHis198に配位する二量体クロロフィルaであると考えるのが一般的であるが,クロロフィルのMg-Mg間の距離は約10Åと,P870の場合の約8Åよりはやや大きく,二量体としての性質は弱くなっていると考えられる.最低励起一重項状態から最初に電荷分離反応を起こすのは,このP680と推定される二量体クロロフィルではなく,アクセサリークロロフィルや励起子結合した多量体であるとの説もある.また,電荷再結合によって生じる励起三重項状態は,二量体クロロフィルとは別のアクセサリークロロフィル上に主に存在することが明らかとなっている.いずれにせよ,初期電荷分離ののち,正電荷はP680上に比較的安定に存在し,数十ナノ秒でチロシンZを酸化する.