高温ストレス[high-temperature stress]

  生物はそれぞれ固有の最適生育温度をもっているが,外界の温度が最適生育温度の上限を超えると,生理機能が低下して生育が阻害される.このように高温によってもたらされる損傷と機能低下を高温ストレスという.光合成は高温ストレスの影響を最も受けやすい,つまり高温感受性の高い生理活性の一つである.なかでも光化学系Ⅱは高温に対して特に不安定であり,酸素発生の反応を触媒するマンガンクラスターが高温により崩壊し,マンガンイオンが解離することによって失活する.高温ストレスによる傷害は他に,生体膜の損傷によるイオンや低分子化合物の透過性の増大,種々の酵素の失活などがある.
 生物は一般に外部環境の温度の上昇に応答して,高温ストレスの影響を緩和する生体防御機構をもつ.たとえば,比較的穏やかな高温に置かれることにより,高温ストレスに対する耐性が増大する.これを高温環境への馴化または適応(遺伝的変異を伴わない)と呼ばれ,主に遺伝子の発現レベルで調節されていると考えられる.光合成系にもこの適応機構が働き,温度の上昇に伴い光化学系Ⅱの熱安定性が増大することがシアノバクテリアから高等植物にわたって幅広くみられる.また細胞が致死温度に近い高温に曝されると,熱ショックタンパク質という一群のタンパク質の発現が特異的に誘導される.この熱ショック応答は原核生物,真核生物ともに普遍的にみられる現象である.ある種の熱ショックタンパク質を欠損すると高温耐性が減少し,また大量発現させると高温耐性が増大することから,熱ショックタンパク質の発現誘導は高温ストレスに対する重要な生体防御機構の一つであると考えられている.

関連項目


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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:43:33