UV吸収色素[sun-screen pigment]

  太陽光には生物に有害な紫外線領域の光が含まれている.地上に到達する生物学的有害紫外線領域(UV-B領域,280~315 nm)は, ピリミジン二量体やニックの形成を通じて変異や細胞死をひき起こす原因となる.光合成電子伝達系,特に光化学系Ⅱは紫外線感受性が高く,可視光による光阻害を相乗的に促進してしまう.維管束植物は,表皮細胞の液胞内にUV吸収色素を蓄積して,細胞を紫外線障害から保護していると考えられている.UV吸収色素として,淡黄色系のフラボノイド(フラボノール,フラボン)類や桂皮酸類などのフェニルプロパノイド代謝産物がよく知られている.赤系色素のフラボノイド(アントシアニン)類は,紫外線に加えクロロフィル吸収可視領域の太陽光強度も下げるため,光合成の強光阻害防止に寄与していることが示唆されている.
 紅藻およびシアノバクテリア渦鞭毛植物の生産する水溶性UV吸収色素は,分光学的特性からShibata (1969)によってS-320と命名された.その後, S-320構成成分の構造が明らかになり,真菌由来のmycosporineに構造類似を示したことから,mycosporine-like amino acids (MAAs)と呼ばれるようになった. MAAは,サンゴなどの海産無脊椎動物や地衣類などの様々な生物で見つかっており,共生藻類のシキミ酸合成経路によって生産されていることが報告されている.植物のUV吸収色素も,藻類のMAAも強力な抗酸化力を有していることから,光学的なUV吸収効果に加えて,UVによって誘発される酸化的ストレス障害の抑制にも寄与していると考えられている.


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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:44:32