ニトロゲナーゼ[nitrogenase]

EC 1.18.6.1.分子状窒素(N2)をNH3に還元する窒素固定を触媒するモリブデン鉄タンパク質(MoFeタンパク質)と鉄タンパク質(Feタンパク質)から成る酵素複合体.酵素活性における触媒作用に基づき各々ジニトロゲナーゼ,ジニトロゲナーゼレダクターゼとも呼ばれる.分子状酸素(O2)に対する感受性が非常に高く,O2に曝されると不可逆的に破壊される.原核生物にのみ広く分布するが,その分布はモザイク的である.Fe タンパク質はnifH遺伝子,MoFe タンパク質はnifD, nifK遺伝子にコードされ,ほとんどの窒素固定生物においてnifH-nifD-nifKというオペロンを形成し,窒素欠乏条件でのみ発現する.

 MoFeタンパク質は,互いに相同性を示す2種のサブユニットNifDとNifKで構成される分子量約220〜 250 kDのヘテロ4量体(α2β2)で,Pクラスター([8Fe-7S]クラスター)と鉄モリブデンコファクター([Mo-7Fe-9S-C-ホモクエン酸],FeMo-co(フェモコ)と呼ばれる)とを1機能単位(αβ)当たり1個ずつ,すなわちMoFeタンパク質 1分子当たり2個含む.Feタンパク質は,分子量約55~70 kDa のホモ二量体(γ2)で,二量体の界面に1個の[4Fe-4S]クラスターが各プロトマーの2個のシステイン残基によって保持される.還元型Feタンパク質は2分子のMgATPと結合した状態でMoFeタンパク質に結合し,Pクラスクーヘ電子を移行し,その際MgATPが加水分解される.酸化されたFeタンパク質はFeMoタンパク質から離脱しMgADPとPi各2分子を放出する.Feタンパク質は,小型の酸化還元タンパク質(フェレドキシン,フラボドキシンなど.生物種により異なる)により還元される.

 全反応は N2 + 8H+ + 8e- + 16MgATP → 2NH3 + H2 + 16MgADP + 16Piで表され,1分子のN2還元に伴い常に1分子のH2が放出される.ニトロゲナーゼの反応モデルは,ストップトフロー吸光光度法と急速凍結分光法をもちいた詳細な速度論的解析に基づくLowe-Thorneryモデルとして提案されており,現在はこれら素過程の構造基盤の解明が進められている.基質N2分子は,FeMo-co近傍に位置するバリン残基 (Azotobacter vinelandiiのMoFe タンパク質ではNifD-Val70)に面するFeMo-coの4つのFe原子(Fe2, Fe3, Fe6, Fe7)のいずれかに結合すると推察されている.N2結合に先立ち,4つの電子と4つのプロトンは,2つのヒドリドとしてFe-Fe間に,2つのプロトンは硫黄原子に結合して保持される.N2分子の結合により2つのヒドリドが還元的脱離によってH2に変換され,FeMo-coを2電子還元状態にする.結合したN2分子は,直ちにプロトン付加を受けてジアゼン(HN=NH)に変換され,さらにプロトンと電子により還元されてアンモニアへと変換される.

 ニトロゲナーゼは,N2以外に多重結合をもつ小分子(シアン化合物,アジ化水素など)を還元するが,特にアセチレンは生成物のエチレンがガスクロマトグラフィー法により測定可能なのでニトロゲナーゼの活性測定に汎用されている.

 A. vinelandiiでは,Mo欠乏条件では,Moの代わりにバナジウム(V)を有するVニトロゲナーゼ,MoもVも含まずFeのみを有するFeニトロゲナーゼを発現する.これらのニトロゲナーゼは,Mo型ニトロゲナーゼと高い構造的類似性をもつが,アセチレンをエタンまで還元できるなど反応性が少し異なる.これらVニトロゲナーゼとFeニトロゲナーゼは,FeMo-coに類似したVFe-coまたはFeFe-coを有すると推察されているが,それらの構造はまだ未確認である.また,これらのニトロゲナーゼとは構造的にまったく異なるスーパーオキシドジスムターゼ依存ニトロゲナーゼの存在がStreptomyces属で報告されているが,その詳細や普遍性は不明である.

関連項目


Last-modified: 2015-03-23 (月) 16:30:28 (1724d)

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