励起された分子の緩和現象の一つ.光の吸収などによって,基底状態から励起状態に遷移したときに,発光によって緩和をし基底状態に戻る現象.発光の状態が励起一重項であり,この点で励起三重項状態からの発光であるリン光とは区別される.蛍光は最低励起一重項状態から起こり,このことをKashaの法則と呼ぶ.したがって,高い励起準位に励起されたときには内部転換によって最低励起一重項状態まで振動緩和をしたのち発光する.この法則は少数の例外,たとえばアズレンなどを除いて成立することが知られていたが,近年の超高速分光技術の発達によって,高い励起準位からの発光が観測できるようになると,高い準位からの発光が例外的ではないことが示されてきた.ある波長の光で励起したとき,蛍光の波長依存の強度を測定したものを蛍光スペクトルという.
光合成研究においては,光合成色素であるクロロフィルやフィコビリンの蛍光収率が高いために,蛍光は非破壊的な観測方法として多岐の目的に使われる.光合成色素系に関しては,色素間のエネルギー移動の起こり方を蛍光スペクトル,蛍光励起スペクトルの測定などから解析ができる.また,時間分解蛍光測定法により,エネルギー移動の速度などを決定できる.蛍光の偏光解消を測定することにより,色素の選択的な励起や,配向させた試料での空間的な分布に関して選択的に励起をし,その後の蛍光偏光の変化を追うことで,さらに測定精度を高めることができる.
蛍光は光化学反応の状態のモニターにも使われる.光化学系においては,蛍光発光はほとんどアンテナ色素,特にクロロフィルから起こるが,アンテナ色素と反応中心の電子供与体の間には平衡が成立するので,反応中心での光化学反応が進行しないときには,蛍光発光の確率が上がり,蛍光強度が増大する.この強度変化を使って,光化学反応の状態,電子伝達成分の状態を知ることが可能となった.