許容遷移[allowed transition]

  光を吸収して分子が基底一重項状態から励起一重項状態に遷移するためには,遷移双極子モーメントがゼロでないことが必要である.逆にその励起状態から蛍光を放射して基底状態に遷移するにもこの条件を満たさなければならない.遷移双極子モーメントがゼロとなるかどうかは始状態と終状態の電子の波動関数の対称性に依存する.C2h交互炭化水素共役系をもつカロテノイドでは一重項状態は下から1Ag-,2Ag-,1Bu-,3Ag-, 1Bu+のように分類されるが,パリザーの符号(+,-)の異なる始状態-終状態間の遷移が許容遷移となる.(ここでA,Bは2回軸,g,uは対称中心,+,-は電子配置のHOMO-LUMO間の鏡映面に対する対称,逆対称を表す).電子状態間の遷移は振動状態の遷移を伴うので,吸収スペクトル蛍光スペクトルには振動構造が現れる.その相対強度は始状態と終状態の振動の波動関数の重なりに依存するので,両電子状態の安定位置のずれを反映する.始状態・終状態のスピン関数に関しては,一重項状態間,三重項状態間の遷移は許容である.

関連項目


トップ   編集 凍結解除 差分 バックアップ 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:42:55