2分子のヘムbとユニークな1分子のヘムcをもつシトクロムで,シトクロムb6f複合体のサブユニット.プラストキノンと電子のやりとりを行い,Qサイクルを介したプロトン輸送で中心的な役割を果たしている.シトクロムb563と同意.分子量約2.4万,α吸収帯の極大563 nm, 分子吸光係数は25 mM-1cm-1.
4本の膜貫通ヘリックスをもつ膜タンパク質で,2分子のヘムbのうちストロマ側のヘムの酸化還元電位(<-45 mV)の方が,チラコイド内腔側のヘムの電位(~-150 mV)より高い.そのため相対的な酸化還元電位の高さから,ヘムbLとヘムbHと呼び区別される注.その軸配位子はすべてヒスチジンで,ヘムは2本のヘリックス間に挟まれて存在する.またX線結晶解析および質量分析の結果から,ヘムbHに隣接してc型のヘム鉄がもう一つ結合していることが明らかになっている.この第3のヘムはヘムcn(もしくはヘムci,ヘムx)と呼ばれ,タンパク質のシステイン残基とチオエーテル結合している箇所が一つしかなく,ハイスピン型の配位構造をしている.シトクロムb6の相同タンパク質であるシトクロムbc1複合体を構成するシトクロムbには存在せず,ヘムbHと一体となって機能していると考えられている.
遺伝子(petB)は葉緑体ゲノムにある.
(注:ヘムbの呼称は,膜ポテンシャルの正負(positive, negative)の違いから,ヘムbp,ヘムbnが用いられることもある.また,ミトコンドリアのシトクロムbc1で用いられている膜の内外(inside, outside)の区別から,チラコイド膜では内外が異なるにもかかわらず順にヘムbo,ヘムbiとも呼ばれている)