酸素発生型光合成の電子伝達反応に関与する3つのタンパク質複合体の1つで,光化学系Ⅱと光化学系Ⅰとの間の電子伝達反応を担う.光化学系Ⅱで二電子還元されたプラストキノン(プラストキノール)はシトクロムb6f複合体のチラコイド膜内腔(ルーメン)側に存在するQP部位(Qo部位とも呼ばれる)に結合し,リスケ鉄硫黄クラスターとシトクロムb6がもつ低酸化還元電位型のヘムbLへ1個ずつ電子を渡す.このとき,チラコイド膜内腔にプロトンを放出し,チラコイド膜を介したH+濃度勾配の形成に寄与する.電子はリスケ鉄硫黄クラスターからC型のシトクロムであるシトクロムfを介してプラストシアニン(または一部の藻類ではシトクロムc6)に渡される.低酸化還元電位型のヘムbLから,シトクロムb6がもつもう一つのヘム鉄である高酸化還元電位型のbHに伝達された電子は,チラコイド膜のストロマ側にあるQn部位(Qi部位とも呼ばれる)で再びプラストキノンの還元に利用される(Qサイクルモデル).リスケタンパク質からシトクロムfヘの経路は高電位経路,シトクロムb6内部でのへムbLからbHへの経路は低電位経路ともいう.
シトクロムb6f複合体は,8種のタンパク質(リスケ鉄硫黄クラスタータンパク質(PetC),シトクロムf (PetA),シトクロムb6 (PetB),サブユニットⅣ(PetD),PetM,PetG,PetN,PetL)から成る.さらに,高等植物ではフェレドキシン-NADP+オキシドレダクターゼ(FNR)が結合しているという報告もある.低分子量の4つのタンパク質サブユニット(PetM,PetG,PetN,PetL)の役割は不明であるが,PetN欠損突然変異体ではシトクロムb6f複合体が欠失する.シトクロムb6f複合体には1分子ずつのクロロフィルaとβ-カロテンが結合している.X線結晶構造解析の結果から,サブユニットⅣにクロロフィルaが,PetLとPetMの間にβ-カロテンが結合しているとわかっているが,その役割は不明である.電子伝達系の酸化還元レベルの変化に伴う光化学系Ⅱの集光性クロロフィルa/bタンパク質複合体(LHCII)のリン酸化レベルの変化など,光による光合成系の調節機構においてもシトクロムb6f複合体は重要な役割を果たしていると考えられている.結晶構造解析の結果から,二量体として存在・機能していることがわかっている.