陸上の植物のように, 淡水に生育する沈水植物でも多様な光合成炭素同化を行うことが知られている. 水中ではCO2の拡散抵抗が高く(空気中の104倍), また水草が過繁茂した水中では, 日中には活発な光合成のため低CO2・高O2濃度環境となり, 光合成の制限要因となる. 淡水に生育する沈水植物でも基本的には還元的ペントースリン酸回路と光呼吸代謝が働いている. しかし近年, このような独特の水中環境に適応した, 溶存炭素を効率よく固定するための様々な機構を獲得した沈水植物の存在が明らかになっている. トチカガミ科のクロモ(Hydrilla verticillata)では低CO2濃度の水中でホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼやNADP-リンゴ酸酵素を初めとするC4光合成酵素の発現量の増大が起こり, C4光合成様の炭素同化を行うようになり, 二酸化炭素補償点も低下する. しかし, 陸上のC4植物とは異なりクランツ型葉構造を持たず, 単一種の葉肉細胞の中でC4光合成様代謝を駆動させる. また, シダ植物のミズニラの仲間(Isoetes howellii)では,ベンケイソウ型有機酸代謝(CAM)に類似した炭素同化を行う. そのほか, アリノトウダイグサ科のホザキノフサモ(Myriophyllum spicatum)では炭素源としてCO2だけでなくHCO3-を利用し, ミゾカクシ科のLobelia dortmannaやオオバコ科のLittorella unifloraは根系から水底の土中に溶存しているCO2を炭素源として吸収する.