クロメラ類 [chromerids]

 アピコンプレクサ類(マラリア原虫やトキソプラズマなどを含む)に近縁な,もしくはそれに含まれる光合成生物.今のところクロメラ(Chromera velia)とビトレラ(Vitrella brassicaformis)の2属2種のみが知られる.単細胞不動性で細胞壁に囲まれる.葉緑体は4重膜で囲まれるが,外側2枚は色素体ERではない.チラコイドはふつう3重ラメラを形成する.クロロフィルはaのみをもつ.カロテノイド組成は2種で異なり,クロメラはイソフコキサンチンビオラキサンチンβ-カロテンをもち,葉緑体は黄褐色を呈する.一方,ビトレラはビオラキサンチン,ボウケリアキサンチン,β-カロテンをもち,葉緑体は緑色を呈する.ルビスコはform II.ビトレラはチラコイドが陥入した突出型のピレノイドをもつが,クロメラはピレノイドを欠く.細胞質基質にデンプン様物質が蓄積される.2種ともに色素体DNA塩基配列が報告されており,渦鞭毛植物ペリディニン型)を除く他の藻類に比べると遺伝子数が少ない(約80タンパク質遺伝子).この葉緑体は紅色植物との二次共生に起因すると考えられている.

 細胞膜直下には扁平な小胞(アルベオール)が存在する.ミトコンドリアは管状クリステをもつ.自生胞子形成または遊走子形成によって無性生殖を行う.遊走子は細胞亜頂端から前後に伸びる不等運動性鞭毛をもち,少なくともクロメラでは細胞頂端にアピコンプレクサ類と同様,頂端複合体(apical complex)が存在する(アピコンプレクサ類では宿主への接着,侵入に用いられる).

 両種ともサンゴから見つかっており,サンゴとの間で何らかの共生関係を築いている可能性がある.2種のみが記載されているが,サンゴ由来の環境DNAから多数の類縁配列が報告されている.

 分類学的にクロメラ門(Chromerida)が提唱されているが,系統的にはアピコンプレクサ門(Apicomplexa)に含まれる可能性が高い.色素体DNAに基づく分子系統解析の結果(ただし進化速度が速いためアーティファクトの可能性もある)やform IIルビスコの存在から,クロメラ類の葉緑体は渦鞭毛藻の多くがもつ葉緑体(ペリディニン型)と共通の起源をもつと考えられている.また同様に,多くのアピコンプレクサがもつアピコプラストとも共通起源と考えられ,このことからアルベオラータの中で,渦鞭毛植物とアピコンプレクサ類の共通祖先が紅色植物との二次共生に起因する葉緑体をもっていたことが強く示唆されている.


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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:44:41