クロロフィルaの生合成[chlorophyll a biosynthesis]

  クロロフィルaは,グルタミン酸に始まり15の酵素反応によって合成される.その合成系全体は, 1) 5-アミノレブリン酸 (ALA) の合成,2) ALAからプロトポルフィリンⅨの合成,3)プロトポルフィリンⅨからクロロフィルaの合成,の3つの段階に大別できる.これらの反応系のうちALA合成からプロトポルフィリンⅨに至る反応は,ヘムの合成系と共有されている.(図参照)

 1) 植物やシアノバクテリアでは,ALAは,3つの酵素,グルタミルtRNAシンテターゼ(①),グルタミルtRNAレダクターゼ(②)およびグルタミン酸1-セミアルデヒドアミノトランスフェラーゼ(③)により生合成される.本経路はC5経路と呼ばれ,光合成細菌や酵母やヒトのミトコンドリアなどが用いている5-アミノレブリン酸シンターゼで触媒されるグリシンとサクシニルCoAの縮合によるALA合成経路と異なる.
 2) ALAからプロトポルフィリンⅨには以下の6つの酵素が関与する.ポルホビリノーゲンシンターゼ(④)によりALA2分子が縮合してテトラピロールの構成単位ポルホビリノーゲン(PBG)が合成される.さらに,ヒドロキシメチルビランシンターゼ(⑤)によりPBG 4分子が順次縮合して最初のテトラピロール化合物である1-ヒドロキシメチルビランが生成する.この酵素は,PGBが2分子結合したジピロメタンをプライマーとして順次PBGを取り込み伸長させ,6分子連結した時点でテトラマーをプライマーから切り出し1-ヒドロキシメチルビランを生成する.次に,ヒドロキシメチルビランは,ウロポルフィリノーゲンⅢシンターゼ(⑥)により閉環テトラピロ一ルであるウロポルフィリノーゲンⅢに変換される.この閉環の際にD環の方向性が反転する.シロヘムやビタミンB12の生合成系は,ウロポルフィリノーゲンⅢから分岐する.ウロポルフィリノーゲンⅢは,ウロポルフィリノーゲンⅢデカルボキシラーゼ(⑦)により4つのアセチル基が脱炭酸されてメチル基に変換され,コプロポルフィリノーゲンⅢとなる.さらにコプロポルフィリノーゲンⅢオキダーゼによりA環とB環のプロピオン酸基が酸化的脱炭酸されビニル基に変換され,プロトポルフィリノーゲンⅨとなる.コプロポルフィリノーゲンⅢオキダーゼとして,酸素依存型(⑧)と酸素非依存型(⑧’)の2つの酵素系が知られている.ヘムとクロロフィルの最後の共通前駆体であるプロトポルフィリンⅨは,プロトポルフィリノーゲンⅨオキシダーゼ(⑨)によってプロトポルフィリノーゲンIXが酸化されて生成する.植物のプロトポリフィリノーゲンIXオキシダーゼ(HemY)はジエチルエーテル型除草剤のターゲット酵素となる.シアノバクテリアは,進化的起源が異なる2種類のプロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ(⑨’, HemJ; ⑨’’, HemG)を有する.
 3)プロトポルフィリンⅨからクロロフィルaに至る経路は,マグネシウム (Mg)-ブランチと呼ばれ, 6つの反応から成る.Mg-ブランチの最初の反応は,プロトポルフィリンⅨの中央にMg2+を挿入する反応で,プロトポルフィリンIXマグネシウムケラターゼ(⑩)によってATP依存的に触媒される.この酵素は、ChlI, ChlD, ChlHの3つのサブユニットから成る.次に,C13位のプロピオン酸基が,マグネシウムプロトポルフィリンⅨメチルトランスフェラーゼ(⑪)によりS-アデノシルメチオニンからメチル基の転移を受け,マグネシウムプロトポルフィリンⅨモノメチルエステルとなる.この酵素は,マグネシウムケラターゼのChlHサブユニットとの相互作用により活性が促進される.続いて,5番目の環構造であるE環がMg-プロトポルフィリンⅨモノメチルエステル酸化的シクラーゼ(⑫)により形成され,3,8-ジビニルプロトクロロフィリドとなる.3,8-ジビニルプロトクロロフィリドは,被子植物では光依存型プロトクロロフィリドレダクターゼ(⑬)により光依存的に3,8-ジビニルクロロフィリドaに変換される.また,シアノバクテリアや緑藻など被子植物以外の多くの光合成生物では, 光非依存型プロトクロロフィリドレダクターゼ(⑬’)も存在し,暗所や光が限られた環境においても3,8-ジビニルクロロフィリドaを生成する.次いで,C8位のビニル基が,ジビニル(プロト)クロロフィリドレダクターゼ(DVR)(⑭)により還元され,クロロフィリドaが生成する.シアノバクテリアは,進化的起源の異なるジビニル(プロト)クロロフィリドレダクターゼ(CVRA)を有し,3,8-ジビニルプロトクロロフィリドも3,8-ジビニルクロロフィリドaも基質とする点で,DVRと異なる.加えて,プロトクロロフィリドレダクターゼがC8ビニル基/C8エチル基に対し特異性を示さないことから,シアノバクテリアなどでは3,8-ジビニルプロトクロロフィリドと3,8-ジビニルクロロフィリドaの両段階でC8ビニル基還元が進行すると推察される.最後に,クロロフィリドaクロロフィルシンターゼ(⑮)によってフィトール鎖の付加を受け,クロロフィルaが合成される.クロロフィルとその中間体は,光酸化傷害をひき起こす危険な分子であるため,その合成系は厳密に調節されており,その主な調節はグルタミルtRNAレダクターゼとプロトクロロフィリドレダクターゼの段階で行われている.また,活性を促進するタンパク質GUN4,活性を抑制するタンパク質FLUや,基質と生成物の効率的な移動を示唆する酵素間の相互作用などが,翻訳後の重要な調節機構として報告されている.

クロロフィルa生合成図hr2.png

Last-modified: 2015-03-23 (月) 16:28:50 (1725d)

添付ファイル: fileクロロフィルa生合成図hr2.png 2993件 [詳細] fileクロロフィルa生合成図hr.png 2267件 [詳細] fileクロロフィルa生合成図.png 608件 [詳細] filechl a biosynthesis.png 1567件 [詳細]

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